猫にマタタビをあげてみたいけど、大丈夫?と心配な飼い主さんもいらっしゃるかと思います。今回はまたたびとはどんな物質か紐解いていくとともに、猫への与え方についてポイントをお伝えします。
猫にマタタビを与える際に知っておきたいこと
- 成分はネペタラクトール
- マタタビは依存性もなく安全
- 常用ではなくご褒美として与える
猫とマタタビの成分の興味深い関係
浮世絵にもネズミが猫との戦いの中でマタタビを使うシーンが描かれるなど、猫にマタタビを与えると酩酊するということは古くから知られています。どうして猫がマタタビに特別な反応を示すのかについては、化学的にも様々な研究がなされてきました。マタタビの中に何が入っていて、それがなぜ猫のマタタビ踊りをいざなうのかです。
その原因として、かつてはイリドミルメシンという物質が候補になっていました。なお、主成分をマタタビラクトンだと説明している記事が散見されますが、これは化学の世界での命名の観点からは正しくなく、イリドミルメシンといいます。
日本の研究者が研究した結果、ある物質を特定してマタタビラクトンと名付けた(1959年)のですが、その少し前(1955年)にアルゼンチンアリが自分たちの巣を守るために自ら出している分泌物として海外で報告されていたものと同一であることが分かり、先に命名されたためです。[1]
2020年に岩手大学と名古屋大学の研究チームが、マタタビの成分が蚊を寄せ付けない効果があるため、体にこすりつけているのではないか?という発表[2]がされて話題になりました。
岩手大学の上野山玲子さんによると、マタタビ内のネペタラクトールが、イリドミルメシンよりも強い効果をもたらしているとのこと。このネペタラクトールが日本や中国に生息する蚊の一種であるヒトスジシマカを寄せ付けなくなる効果をもつため、猫はマタタビを与えるとゴロゴロ・スリスリするということです。
これらイリドミルメシンやネペタラクトールが、ある特定の昆虫を近づかせない効果をもつということを、アリも猫も体験的に(?)知っていたというのは、自然の有能さを感じ非常に興味深い所です。
マタタビとはどんな植物?
マタタビは日本及び朝鮮、中国、ロシアの冷温帯、暖温帯に分布するつる性の落葉樹です。実は本来はピーナッツのような形をしていますが、マタタビアブラムシやマタタビミタマバエが寄生すると、デコボコの虫こぶとなります。
この虫こぶを熱湯殺虫して乾燥させたものを木天蓼(もくてんりょう)といい、漢方薬として、冷え性などに効くとして人間にも用いられています。普通の実よりも、寄生された実の方が成分を多く含むというのも、マタタビアブラムシやマタタビミタマバエもアリと同じように効果を知っていたという事でしょうか。その結果、猫やさらには人間が寄ってきてしまうというのは皮肉ですね。
なお、虫こぶの実には最も多くの成分が含まれていますが、普通の実や葉や木の部分にも含まれています。マタタビは東アジア周辺に自生する植物ですので、アメリカ製などの商品には、キャットニップと呼ばれる別の植物が使われていることも多いです。
キャットニップとマタタビは多少成分も異なるようですが、マタタビの方が効くため、アメリカでは、マタタビ以外の植物で同じような効果があるものはないか探すといった研究もあるくらいです。日本の猫はラッキーですね。
マタタビの安全性とは
さて、話を元に戻します。猫にマタタビを与えると、特有の反応を示します。喉を鳴らしたり、寝転がって体をくねらせたり、よだれを出したり、フレーメン反応をみせます。おおよそ5-15分間程度続き、その後は反応しないようです。[3]
猫には、鋤鼻器官(じょびきかん)というフェロモンを受け止める場所があり、そこで上記の物質を感じ取ると、このような反応を見せます。
ちょっと難しくなりますが、岩手大学の上野山怜子さんによると、ネペタラクトールが脳内のμオピオイド受容体に作用して、βエンドルフィンが出ていることが確認されています。いわゆる脳内の報酬系システムを刺激するので、マタタビを嗅ぐと幸福感をもたらすホルモンが出る、そんなメカニズムです。
米国の文献調査によると、1973年以降に書かれた57件の調査を紐解いてみても、中枢神経を麻痺させるといったことや、依存性などはないとされています。
有名な動物学者レイハウゼンが猫にとって中毒性があると示唆しましたが、これを裏付ける調査は見つからなかったそうです。[4]
総じて中毒性はないとされます[5]ので、安心して使って良いかと思います。
ちなみに、ネペタラクトンの経口投与は反応を誘発しませんので、ご飯に振りかけて食べさせるといった与え方をしてもゴロニャンとはなりません。[6]
また、私の経験上、新鮮なマタタビは人間にとってもスーッとしたいい香りがします。この香りは時間が経つと薄まってしまいますので、市販のマタタビのオモチャは購入後早めに与えたが良いと思います。
【与え方】キャットタワーに登る動機づけとしても
では、どのように使うのが理想的かというと、常用ではなく時々使うのが良いと考えられます。例えばお留守番が長かった時や、人間の来客があったとき、病院から帰ってきたときなどに、ご褒美として、ストレス解消の道具として、ときどき与えるのが良いと思われます。
キャットタワー製造者の私は、キャットタワーを建てたときに、初めてのキャットタワーに登る動機づけとして、キャットタワーの上段部分にマタタビを設置したりします。良い景色が見られる、高い所は攻撃されにくいといったキャットタワーに登ると良いことがあることを体験的に学ぶ一つの方法になると考えています。
ただし、あまりに酩酊して、キャットタワーから落ちるようなことのないようにしてください。普通の市販の猫用マタタビにはそこまで効果はありませんが、山に生えている自生マタタビを与えるときは注意がいります。
キャットタワーに備えられる天然のマタタビおもちゃのご用意もありますので、併せてご検討ください。真空パックでお届けします。
以上、マタタビの効果とキャットタワーへの設置について、ポイントをまとめました。安心して使えるものですので、猫のストレス解消に上手く与えたいですね。
文献[1] 「またたびの研究から」化学教育 12(1), 16-22, 1964
文献[2] “The characteristic response of domestic cats to plant iridoids allows them to gain chemical defense against mosquitoes”, Science Advances 20 Jan 2021:
Vol. 7, no. 4, eabd9135,
文献[3] B. L. Hart, M. G. Leedy, Analysis of the catnip reaction: Mediation by olfactory system, not vomeronasal organ. Behav. Neural Biol. 44, 38–46 (1985)
文献[4] The Use of Silver Vine (Actinidia Polygama Maxim, Family Actinidiaceae) as an Enrichment Aid for Felines: Issues and Prospects American Journal of Animal and Veterinary Sciences 7 (1): 21-27, 2012
文献[5] B. L. Hart, L. A. Hart, Your Ideal Cat: Insights into Breed and Gender Differences in Cat Behavior (Purdue Univ. Press, 2013).
文献[6] G. R. Waller, G. H. Price, E. D. Mitchell, Feline attractant, cis,trans-nepetalactone: Metabolism in the domestic cat. Science 164, 1281–1282 (1969)